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【連載】ラグのある暮らしを訪ねて。vol.03 ファッションディレクター・近藤昌平さん

【連載】ラグのある暮らしを訪ねて。
vol.03 ファッションディレクター・近藤昌平さん

アパレルブランドのPRやプロデュースから、デジタルコミュニケーションのコンサルティングまで。株式会社RADIMO代表取締役の近藤昌平さんは、多方面で活躍している気鋭のファッションディレクター。現在は東京都港区の湾岸エリアに建つマンションで暮らしています。ご自宅にうかがうと、そこには豊かな暮らしを送るためのヒントがあちこちにありました。感度の高い近藤さんの仕事のクオリティを支えているのは、どんな部屋なのでしょうか? 

フロアライフコンシェルジュ

畠 あけみ

畠 あけみ インテリアコーディネーター / カラーコーディネーター
リビングスタイリスト / キッチンスペシャリスト

一枚のお気に入りの敷物に出会っていただくためのお手伝いが出来ればとても嬉しく思います。

暮らしに取り入れるのは、自分の尺度で選んだものだけ

暮らしに取り入れるのは、自分の尺度で選んだものだけ

運河沿いの水辺に建ち並ぶ、東京都港区の瀟洒な高層タワーマンション。近藤昌平さんがここで暮らすようになったのは、今から4年前のことです。以前住んでいたリノベーションしたレトロマンションはお気に入りだったものの、ファッションディレクターという仕事柄、撮影機材やキャリーケースの出し入れに少々不便さを感じていたのだそう。


「当時、このマンションの近くに住んでいて、窓から見えていたんです。ジョギングするときに通りがかったりして、思い切って一度くらいは住んでみようかと思ったんですよ。タワーマンション自体に興味があったわけではありませんが、何事も経験ですから。実際、設備が整っているので快適になりました。むしろエレベーターが多すぎるくらい(笑)」


間取りは2LDK、キッチンとつながる広いリビングダイニングのほか、クローゼットを兼ねた作業部屋と寝室が廊下でつながっています。目を引くのは、床から天井までの一面のガラス窓。リビングからは公園の緑が、寝室からは運河の眺めが広がるという気持ちのいい景色が決め手だったそうです。

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それぞれの部屋を拝見すると、どこも整理整頓が行き届いていて、まるでギャラリーのような静謐な佇まい。そして室内のあちこちに、さまざまなデザインの椅子が置かれているのが印象的でした。その理由を聞いてみると……。


「建築が好きで旅先でもよく見るんですが、たとえばサクラダファミリアを見に行っても、眺めるだけで終わるでしょう? 椅子は建築的な要素があって、部屋に置いておけるのがいいんです。名作といわれるようなものはなかなか手に入りませんが、大きな仕事を無事に終えたときには『頑張ったし、思い切って買おう!』となって(笑)。少しずつ増えてきましたね」


並んでいるのは、シャルロット・ペリアン、マルセル・ブロイヤー、ピエール・ジャンヌレなど、名だたる建築家たちの名作チェア。とはいえコレクターというわけではなく、テーブルはデンマークの家具ブランド「HAY」、鉢植えは日本でもおなじみの家具量販店「IKEA」、サイドボードはアンティークのものなど、インテリアアイテムは好きなものを自由に取り入れているのだそう。


「実は僕の部屋の中にあるものは、作家も国もバラバラなんです。あまりカテゴリに縛られたくないんですよね。しいていえば、こだわっているのは素材感でしょうか。洋服も『ルメール』などミニマルなデザインが好きで、たとえば同じ黒でもニュアンスは異なりますよね。曲線ひとつとっても、影の落ち具合も変わってきます。そういう繊細なディティールに惹かれるんです」

仕事と私生活の境目、デザインと実用性の境目

仕事と私生活の境目、デザインと実用性の境目

部屋のあちこちに置かれた家具や雑貨は撮影で使うこともあり、「プライベートと仕事がつながっているからこそです。僕、自分のためだけにぜいたくするのが苦手なんですよ」と近藤さん。椅子やアートブックなど、よくオフィス兼スタジオと自宅を行き来させているのだそうです。


そしてリビングの中央に置かれているのが、ゆったりとした大きなソファと、シンプルな白いラグ。サイズも色味もマッチしていて、コーディネートして揃えたのかと思いきや、実はラグはこの部屋に移る際に買い足したものなのだとか。その背景にも、近藤さんの「仕事とプライベートのつながり」がありました。


「このHAYのソファは前の部屋から使っていました。ラグは、引っ越しを機にちゃんとしたものを敷こうと、セレクトショップの『CIBONE』で購入したんです。というのも、CIBONEの担当者と仕事上お付き合いがあって、いろいろと相談に乗ってもらっていたものですから。HAYとCIBONEは同じ会社が運営しているので、僕がソファを買ったことを担当の方が知ってくれていていて。それである日、『合いそうなのがあったよ』と教えてくれたんですよね」

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落ち着きのある色味と、風合いや肌触りの良さが気に入って購入を決め、出来上がったのが、居心地の良さそうなくつろぎのスペース。自宅で仕事をすることも多く、スマートフォンのサイトをチェックすることもあれば、ひとりで過ごすときはソファに座って映画を観たり本を読んだり、友人を招いたときはワインを味わいながら車座になっておしゃべりしたり。寝ころんでウトウトすることもあって、「完全に僕を駄目にしてくれる(笑)」と近藤さんは笑います。


「重視したのは、やっぱり居心地の良さです。ファッションでもそうですが、どんなにおしゃれでも、着心地が悪ければ結局着なくなるじゃないですか。同じように長い時間使うものは、デザインだけではなく実用性も高いものがいいと思うんです。このラグはもう4年も使っていますけど、手入れもしやすいし、丈夫で心地よくて、気に入っています」

「余白」が生み出すクリエイティビティ

「余白」が生み出すクリエイティビティ

そんな近藤さんのインテリアの考え方は、「余白」を大切にすること。好きなものはたくさんあっても削ぎ落として厳選する、そのようにして生まれてくる家の中の余白こそが、新しいアイデアを生み出したり、クリエイティビティを高める源になっていると言います。


「買い物が好きなこともあって、いつでも新しいものを置けるようにしておきたいんです。部屋のあそこに大きい植物を置いたら面白そうだなとか、いつも自分の中にいろいろなビジョンがあるんですよね。そういうイメージが湧いてくるのは、部屋に余白があるからこそじゃないかと思うんです」


同時に、「好きなものだけに囲まれて暮らしていると『次はこうしてみよう』とわくわくしてくる」と近藤さん。今、興味を持っているのはヴィンテージのラグ。毎シーズン、コレクションを見るためにパリに行っており、先日は現地のギャラリーの壁に飾られていた美しいラグがまさにヴィンテージものだったそう。以来、ぜひ撮影でも使ってみたいと、あちこち探している最中なのだとか。

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「いつかはヴィンテージラグに挑戦してみたいですね。ただ、いいなと思ってもとても気軽に買える金額じゃない(笑)。いつも白や木目のものばかりを選びがちなので、古い時代のカラフルな柄物を取り入れると、インテリアの考え方も変わっていくかもしれないなと思っています。そういう自分自身の変化も楽しみのひとつです。ただ、僕自身は、古いものにも新しいものにも、こだわりはないですね」


現行品であっても、使い続けていけばだんだん自分だけの味わいが出てくるもの。そんな視点があるからこそ、一度購入したものはなかなか手放せないのだそう。有名なアーティストの作品でも、セレクトショップで買ったラグでも、一つひとつのものを大切にするからこそ、次の暮らし方が生まれてくる。それが近藤さんのライフスタイルの秘密なのかもしれません。

好きを追求することは、人生を豊かにしてくれる

好きを追求することは、人生を豊かにしてくれる

最後にこれからの暮らしについて聞いてみると、「自分で空間をつくってみたい」という答えが。実は最近、オフィス兼スタジオの内装を自らデザインしてリノベーションしたのだそうです。そのことをきっかけに、賃貸ではなく、自由に手を入れられる物件への興味が湧いてきていると近藤さんは言います。


「自社の新しいスタジオでは、素材やテクスチャーにとことんこだわって、やってみたかったデザインをアウトプットしていきました。もちろん建築家の方と一緒にですが、すごく達成感があって。そんな経験をしてしまったからか、自分の住む家も同じように自分でつくってみたいなと思い始めてきたんです」


そのときにやってみたいと考えているのが、寝室の床にラグを敷き詰めること。近藤さんは幼い頃に和室で過ごしていた経験があり、理想は畳のように床でくつろげる部屋。その代わりに今は、寝室にイサム・ノグチの照明や、浮世絵を飾って和の落ち着く空間にしていて、ここにラグを敷き詰めたらどう印象が変わるのか、そんなことを考えているそう。

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4年前、それまでのライフスタイルとは異なる環境に飛び込んだ近藤さんは今、この部屋を拠点に全力で仕事に打ち込んでいます。新たな生活に馴染んで毎日を送れていることは、これからの人生を歩んでいくうえでの自信にもなったそうです。その中心にあるのは、「好きなもの」に囲まれた暮らし。


「たとえばジャンヌレの家具には、インドのチャンディガールという都市のためにデザインされたものもあるんです。そのことを知ると、次はインドに行ってみたくなる。弟子たちはどんな仕事をしているのかと気になってくる。大人になると学ぶ機会は少なくなりますが、好きを掘り下げていくと、点と点がつながって線になって、どんどん広がっていくんですよね。同時に、その世界の共通言語が身につけば、より深くコミュニケーションできるようにもなっていきます。自分の好きなものを追求していくことは、人生を豊かにしてくれる。そう思いますね」